【出場者インタビューvol.2 保護者篇】安東由希子さん
EXA KIDS 2018チャレンジコース
ファイナリスト/安東鷹亮(あんどう・ようすけ)くん
お母さん/安東由希子さん
ずば抜けたスキルと独自の世界観で次々とデジタル作品を生み出す安東鷹亮くん。「EXA KIDS(エクサキッズ)2018」ではそのレベルの高さで審査員を圧倒したものの、作品の背景と魅力を伝える「プレゼン力」でライバルに差をつけられました。その後、鷹亮くんがどんな成長を遂げて、そばに寄り添うお母さんにはどんな変化が起きたのか。母・由希子さんの視点で語っていただきました。
次が待ち遠しくてたまらない
プログラミングが開いた世界
息子の鷹亮は幼い頃から「仕組み」や「構造」に興味があって、気になるものがあれば持ってきて「中を開けて見せてほしい」とせがんでいました。それが「どうやって動いているか」を知りたくてたまらなかったようです。
パソコンに触れたのは小学2年生のこと。「マインクラフト」という構造物をつくるゲームに夢中になってそれまではタブレットで遊んでいたのですが、パソコンを覚えるともっといろんなことを自分で始めるようになりました。その後、プログラミング教室に通い始めて自分で調べながらどんどん一人でプログラムを組んでゲームや動画を作っていくようになったんです。
最初、私はプログラミング教室に通わせることに乗り気ではなかったんです。受講料が高いイメージがあったから(笑)。でも、一度体験すれば「絶対やりたい」って言うことは分かっていました。友人が体験会に誘ってくれて、結局は通うことになりました。
教室に通い始めてからは子どもたち同士の空間でやることが大事だと気が付きました。他の習い事は「行きたくない」と泣きながらいやいや通い続けることもありました。でも、プログラミング教室だけは行きたくない日なんてほとんどなかったし、「次はいつ? 次はいつ?」と待ち遠しくてたまらないようでした。
悔し涙を必死に堪えた表彰式
半年後に起きた心の変化
EXA KIDSに出場したのは小学4年生のとき。通っていたプログラミング教室の先生から「今まで作ったものをあるだけ応募してください」と言われて、コンテストにエントリーしました。その中で最終選考に残ったのはマインクラフトで作ったものと、夏休みの自由研究で「ペットボトルロケット」の制作工程を撮影・編集した1分程度の動画の2作品です。
一次審査は通過してステージでプレゼンをしましたが、入賞はできませんでした。というのも、プレゼンがあまり上手くいかなかったんです。あまりに内容がマニアックすぎて「プレゼンでそれを人に伝えてもあんまりすごいとは思われないよ」とアドバイスをしても、私の言うことは聞いてくれませんでした(笑)。プログラミング教室の先生たちに見てもらっていたら少しは違ったのかもしれませんが、あいにく本番前に風邪をひいてしまってアドバイスをもらう機会がないまま当日を迎えたんです。
本人は自信があったはずだから、絶対に賞をもらえるものだと疑わなかったでしょう。それが、次々と他の子たちが名前を呼ばれていって、彼はじっとステージの真ん中で涙を目にいっぱい溜めたままじっと堪えていました。その場では我慢していましたが、帰りの車では感情が爆発し大暴れです。
大会が終わって半年間は自宅で「EXA KIDS」が禁句となり、その後、鷹亮は何もなかったかのように過ごしていました。それが、半年くらい経った頃でしょうか。リビングにいるときにふと「次のエクサキッズはがんばる」と言ったんです。あんまり唐突だったので私も「ふうん」と何気ない返事をしましたが「気持ちに整理がついたんだな」と嬉しくなりました。
自然と増えた息子の笑顔
長年の葛藤から解放された
結果は伴わなかったけれどコンテストに出場した後で息子には大きな変化が起きました。同じ小学校の保護者の人や近所の人から「鷹亮くんってこんな風に笑うんだ」と驚かれるくらい表情がやわらかくなったんです。もともと学校が大嫌いで休みがちだったんですが、学校ではよほどムスッとしていたんでしょう。
さかのぼれば幼稚園の頃から行きしぶりで、それを無理矢理、通わせていたような状況でした。特に苦しかったのは小学校中学年のときです。朝、先生が迎えに来てくださるんですが鷹亮は大泣きするし、先生が帰るときに毎回「すみません」と頭を下げるばかりで、当時は「なんで私は学校へ行ってほしいんだろう」と悩んでいました。
私も夫も学校に行きたくないと思ったことがあまりなくて、みんな当たり前に通っているしそれが普通だろうと思っていたんです。「行かない」という選択肢が全くなかった。でも、彼にとっては泣くくらい嫌な場所なんですよね。感覚が過敏で集団が苦手という特性があるんです。私は学校へ行ってほしいけれど、それほど行きたくない場所へ送り出して良いものか、という葛藤を感じていました。
それが、コンテスト出場後はその悩みが軽くなっていきました。本人にとっては一次審査通過が自信になったようで、学校に行くことは減りましたがずっとパソコンに向かって、好きなことをやり続けているんです。それで私も「学校へ行かないことをデフォルトだ」と捉えるようになって。今では2~3週間に一度、担任の先生と面談するときだけ通っています。先生は「君はこれだけ頑張っているから無理に来なくていい。これからの時代はそういう学び方がある」と言ってくださって安心しました。
ゴールを見据えた初めての挑戦
あの日の悔しさを今にぶつける
親としてみれば私の言うことをもっと聞いてほしい、と思うときはありますが、ひとりの人間としてみたら彼の「ぶれない」姿勢を見習いたいと感じることが多いんです。誰が何と言おうと我が道を行く、というか周りに影響されませんから(笑)。それに意欲がすごくて「これを作りたい」と思ったら英語の文献だって読むし、一日中ずっとパソコンに向かい続けている。そういうところもすごく尊敬しています。
今回の「EXA KIDS 2019」が息子にとって「コンテストに向けて作品をつくった」初めての経験でした。本人は自分の作品を応募したり人に評価されたりすることに全く興味はなくて、自ら何か一つのゴールを目指して作品をつくることはなかったんです。でも、昨年の悔しい経験があったから今年は「テーマにそってつくり、入賞する」という明確な目標があったんだと思います。
今年のテーマを知ったのは二人で外を歩いているときでした。携帯電話に募集要項が届き「今年のテーマは『れいわ』だって。どうする?」と話しているうちにだんだんと盛り上がってきて「今すぐつくる!」と言って、2日後にはほぼ完成した作品を見せてくれました。周りの反応はいまいちですが、私にとってはヒット作です(笑)。
最終選考まで残れば今年もまたプレゼンが待っています。昨年はプレゼンで失敗していますが、今思えば彼らしくて良かったんだと思います。「人に伝える」のがどういうことか、どうすれば伝わるかは本人が気づいてくれればいいな、と。
一時はあんまり引きずっているので「参加させなければ良かったのかな」と思うこともありましたが、一年後にはこうして気持ちを切り替えて新しいテーマに挑んでいる。そうした変化を見られるのが嬉しいですね。
でも、一番大きく変わったのは親である私のほうかもしれません。息子が学校に行かないことも吹っ切れて「このままこの道を歩ませて大丈夫」って信じられるようになったんです。それが伝わったから鷹亮も明るくなっていったのかな。
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